コラム


相続登記が義務化される法律が成立しました。

令和3年4月21日、「民法等の一部を改正する法律」及び「相続等により取得した土地所有権の国庫への帰属に関する法律」が成立しました。

改正内容は多岐にわたりますが、まずは、相続登記が義務化されたことから、ご案内したいと思います。

これまで、不動産の名義人の方が亡くなった場合、相続人の方へ名義を変更する相続登記というものについては、特に義務とはされておらず、利用価値の低い不動産や、相続人間での協議が成立しない場合、そのまま放置されることがありました。

そのため、所有者不明の土地が、日本全体の約20%にものぼり、おおよそ九州全体に近い面積が現在誰が所有しているのが分からなくなっています。このままいくと、2040年には北海道全体に匹敵する面積(720万ha)まで拡大してしまうという調査結果があります。

その影響は計り知れず、①不動産の取引や利活用ができない、②公共事業や災害対策が進められない、③民間の都市開発事業が進められない、などなど様々な社会問題を引き起こしており、経済損失は6兆円にも上ると言われております。

そういった理由から、今回、相続登記を義務化するという運びになったわけですが、この法律が施行されるのは、2024年からとなります。

この法律が施行されると、施行後に発生した相続のみならず、それまでに発生した相続で放置されているケースも対象となります。

義務化の前にすでに相続が発生していた場合、下記のいずれか遅い日から「3年以内」に相続登記を申請しなければなりません。

①自己のために相続の開始があったことを知り、かつ、当該所有権を取得したことを知った日

②改正法の施行日

正確には「不動産を取得した相続人に対し、その取得を知った日から3年以内に相続登記の申請をすることを義務付ける。」となっているので、単純に名義人が亡くなった日から3年というわけではありません。たとえば遠い親族が亡くなって自分が相続人であることを知らなければ義務違反とはならないものと思われます。

しかし、義務がある方については、3年以内に登記をしない場合、10万円以下の過料が罰則として課されることも決まっております。

相続登記は早めにした方がコストが安くつく場合がほとんどですので、相続が発生して登記をそのままにしておられる方は施行日を待つことなく、なるべく早めにお手続きされることをお勧めいたします。

今回の改正につきましては、これ以外にも様々な改正点がありますので、また順にご案内させていただきます。

相続登記の登録免許税の非課税措置の期限が近づいています。

コロナによる未曽有の災禍の中、皆様のご苦労はいかほどかと拝察致します。

当事務所においても、微力ながら個人事業主様のなかで、支援金の専門家事前確認を顧問の税理士・社会保険労務士から、むげに断られた方々への助言業務など、できるだけのご協力をさせていただいておりますが、まだまだ収束が見えないなかですので、ご注意いただきます様お願いしたいと思っております。

ご存知の方もいらっしゃるかもしれませんが、相続登記(亡くなった方の名義のままの不動産について、相続人の方へ名義を変更する登記手続き)にかかる登録免許税という税金が、一定の条件のもと非課税となる措置の期限が、2021年(令和3年)3月31日までとなっております。(延長されるかどうかは現時点では不明)この一定の条件というのが、

  1. 市街化区域外の土地である
  2. 市町村の行政目的のため相続による土地の所有権の移転の登記の促進を特に図る必要があるものとして、法務大臣が指定する土地である
  3. 不動産の固定資産税評価額が10万円以下の土地である

以上の3つの条件全てを備える場合は、本来かかるべき登録免許税としての固定資産税評価額 × 1000分の4の税金が非課税となるというものです。

現在の日本では、九州全土に相当する面積の土地が、相続登記未了のため持ち主不明の土地となっておりますが、相続登記の義務化に向けての動きもあり、少しでも得な時期に早めに手続される方が結果的に、費用的にも労力的にも得をすることになるのは明白です。この機会を逃さないよう手続きをご検討いただきます様お勧めいたします。

相続発生後の預貯金の引き出しが簡易に

以前、コラムに掲載した通り、相続財産の預貯金が遺産分割の対象となると、最高裁で平成28年に判断されました。ということは、相続人間で遺産の分割について協議がまとまらない限り、葬儀代といえども簡単に引き出すことはできなくなります。

そういう不都合を解消するために、今回の法改正で「仮払い制度」というものが創設されました。条文から見ると2つの制度に分けられまして、1つ目は、当面の必要生活費、葬式等を使途として、家庭裁判所の判断を経ずに、預貯金の一部払い戻しを認めることとし、2つ目は、相続財産に関する債務の弁済、相続人の生活費の支弁等を使途として、従前からある家庭裁判所の保全処分で支払われるものですが、その要件が緩和されることとなりました。

それぞれ詳しく見てみますと、

1つ目は、遺産となる預貯金について、各共同相続人が、単独で引き出しできることを認めるとされる額が

A 預貯金の金額 × 3分の1 × 引き出しをする相続人の法定相続分

B 一金融機関当たり上限額150万円

上記の、A・Bいずれか低い方の額までとされています。

2つ目は、1つ目よりも多い額を必要とする場合で、代表的な例は、亡くなった方の借金の返済日が近づいているようなケースです。

こういう場合は、家庭裁判所に申し立てて、仮払いの必要性を説明しなければならないので、1つ目よりは手間がかかります。1つ目の方法で複数の金融機関から、上限額まで引き出しをしていっても必要な額まで不足するような場合は、こちらを利用することも考えなくてはなりません。引き出し額に上限はありませんが、他の相続人の利益を侵害しない範囲内で、という制約はあります。

それぞれのご家庭の事情から、必要な制度を使い分けて利用されることで、急な出費にも対応できるようになるかと思いますので、参考にして頂きたいと思います。

相続は登記が対抗要件に!

相続によって不動産について権利を得た人は、遺産分割したものかどうかにかかわらず、自己の法定相続分を超える部分については、対抗要件として登記をすることが必要であることが、法律で明文化されました。

これまでの判例では、遺言による不動産の承継の場合、遺贈については、登記することが第三者への対抗要件でしたが、相続分の指定、遺産分割方法の指定については、登記しなくても第三者に対抗できるという判断がされてきました。しかし、これでは、遺言の内容等を知りえない第三者の取引の安全を害するということで、今回の改正に至りました。

少し例を挙げてみます。

1.遺言がない場合

  • 甲不動産を所有していたAが死亡し、子であるBとCが相続した。BとCは法定相続分通りの、持分2分の1ずつとする相続登記をした後、二人の間で遺産分割協議を行い、甲不動産はBが単独で相続することとした。だが、Bがその持分移転登記をしない間に、Cは自己の持分を第三者Fに移転登記をしてしまった。→Bは自己の相続分を超える持分2分の1(最初にC持分であった部分)についてはFに対抗できないこととなった。

2.遺言がある場合

  • 甲不動産の所有者であるAが死亡し、子であるBとCのうち、甲不動産をBに相続させるとの遺言があった。しかしCが勝手に、BとCそれぞれ2分の1ずつとする相続登記をして、Cの持分である2分の1をFに移転登記をしてしまった。→上記1.と同様Bは自己の相続分を超える持分2分の1(最初にC持分であった部分)についてはFに対抗できないこととなる。

最近では、持分のみを買い受ける業者も実際に出てきているという話です。他の共有者である相続人にその持分を買い取るよう要求してくるということも考えられます。これまでのように相続の場合は、登記をしていなくても大丈夫とのんきに構えていると、とんでもない事態に陥る可能性も出てきたということですので、くれぐれも相続の登記は早急にされることをお勧めいたします。

配偶者の居住権という新しい権利

今回の相続法の改正では、高齢化社会の進展や家族の在り方に関する国民意識の変化等をふまえて、最も強く打ち出されたのが「配偶者への優遇」です。

最も注目される「配偶者居住権」というものをご紹介いたします。これは、相続が発生したときに配偶者が亡くなった方の所有建物に住んでいた場合、その後も無償で建物を使用できる権利のことをいいます。

配偶者居住権は、大きく2つの種類に分けることができ、一つを短期の配偶者居住権、もう一つを長期の配偶者居住権と呼ぶことにします。簡単に言うと、短期のものは要件さえ満たせば自動的に発生するもので、長期のものは、遺産と同じようにその権利を付与しなければならないものとでもいいましょうか。

少し、細かく比較してみます。

【短期の配偶者居住権】

  • 期間・・・相続開始時から遺産分割協議成立まで、あるいは相続開始時から6か月間を経過するまでのいずれか遅い日まで
  • 要件・・・配偶者が相続開始時に、被相続人所有の建物に、無償で居住していたこと

【長期の配偶者居住権】

  • 期間・・・遺産分割協議成立時等、開始から終身(ただし期間の制限を設けることも可能)
  • 要件・・・①配偶者が相続開始時に、被相続人所有の建物に、無償で居住していたこと。②遺産の分割によって配偶者居住権を取得するとされたとき、又は配偶者居住権が遺贈(遺言によって無償で贈与されること)の目的とされたとき。

この制度が開始されるのは、2020年4月1日からです。

この権利のおかげで、自宅を売却しなければ遺産分割が成立しないような相続人の関係性であっても、年老いた配偶者が自宅を追い出されるようなことは防ぐことができそうです。短期の配偶者居住権はわずかな猶予しかないので、残される配偶者のことを心配されるのであれば、遺言の作成で終身の居住権を得られるようにしなければいけませんね。 

自筆証書遺言が作りやすくなった

忙しさにかまけてしばらくコラムを掲載しておりませんでしたが、ここ最近、相続法が40年ぶりに改正され、大幅な変更がありましたので、一つずつご紹介します。

まずは、遺言の種類のひとつで、ご自分ですべて作成するタイプの「自筆証書遺言」が、かなり作りやすくなりました。

これまでは、全文を自書といって、自分で手書きしなければならなかったのですが、今回の改正によって、財産目録と呼ばれる部分(譲り渡す資産の一覧を記載したもの)については、パソコンで作成してもよいし、不動産であれば謄本(登記事項証明書)をそのまま添付してもよいし、通帳などはそのコピーを添付してもよいということになりました。これは不動産の記載方法などで不備が生じてしまうことも防ぐことができますし、かなり簡便になった印象ですね。ただし、自書していない部分についてはすべてのページに署名・押印することを忘れないようにしなければなりません。

さらに、2020年7月10日からは、自筆証書遺言を法務局で保管されることも開始されます。これで、自筆証書遺言の弱点であった、紛失や発見されないというリスクが大幅に軽減されそうです。さらには法務局で保管される自筆証書遺言については、これまでは必要であった家庭裁判所での「検認」という手続きの対象からも除外されるようですので、かなり自筆証書遺言を作るハードルが下がったといえると思います。

遺されるご家族の関係性を想うのであれば、早期に遺言を作成されることをお勧めいたします。

遺言をすべき人②

前回の続きとして、今回「遺言すべき人」として分類するのは、遺言を残しておかないと、ご自身の想いを実現できない人で、以下の通りとなります。

  1. 内縁の妻や、認知していない子など、相続人以外に財産を渡したい人がいる
  2. そもそも相続人がいない(その財産は、ご自身の希望とは関係なく国庫や、特別縁故者などに引き継がれます。)
  3. 相続人の内に財産を渡したくない人がいる
  4. 相続人の内に、他より多くの財産を渡したい特定の人がいる
  5. 寄付をしたい場合
  6. 自宅不動産は長男へ渡したいなど、分散しないようにしたい財産がある
  7. 会社を経営しており、自社株を保有しているが、後継者が滞りなく会社を経営していけるようにしたい
  8. 生前に相続税対策をしたので、その想定通りに相続させたい

上記のような想いを抱いている方々は、遺言や民事信託(あるいは生前贈与など)で手を打っておかなければ、その想いが実現されることはありません。「こうなったらいいな」程度の想いであれば、想いが実現されなくともよいのかもしれませんが、その想いが必須の場合は、遺言書の作成も必須であるとお考えください。

遺言をすべき人①

「終活」という活動がブームになり、遺言を作成する人が増えてはきているモノの、まだまだその全体の数は少ないまま推移しています。公正証書で遺言を作成する人は、全体の約1割程度という事実は、作家の井沢元彦さんが、本にも書いておられる、日本人の根底にある思想で、言霊(ことだま)というものに原因があるのではないかとも思う昨今です。

ホームページ内にも遺言すべき人はご紹介しておりますが、少し細かく分類してみたいと思います。今回「遺言すべき人」として分類するのは、遺言を残しておかないと、遺族が争族と化す可能性の高い人で以下の通りとなります。

  1. 再婚している(前婚と後婚の互いの家族で争う可能性が高い)
  2. 子どもがいない(妻と親兄弟との間で争う可能性が高い)
  3. 相続人の中に、疎遠な人がいる(人間関係のない人の間では、遺産の取り合いになる可能性が高い)
  4. 財産の大半が自宅不動産や自社株などで分けられないものである(遺産そのもので分けるとどうしても不公平になってしまう)
  5. 非嫡出子(結婚していない男女の間に生まれた子)がいる(生まれ育った環境に不満を持つ子の反発が考慮される)

上記の分類に該当される方は、すぐにでも遺言の作成にとりかかることをお考えください。まだまだ早いとお考えの方に限って、いざという時に間に合わず、遺族に多大な苦労を強いる結果となるケースが多いです。ご自身の人生の精算を遺族に丸投げしないよう、お早目に対策を立てることをおすすめいたします。

法定相続情報証明制度が開始!

平成29年5月29日に、以前にもこのコラムで触れた「法定相続情報証明制度」が全国の法務局(登記所)において開始されました。

この制度はどういうものかというと、相続人が法務局に戸籍除籍謄本等の束を提出し、併せて相続関係を一覧に表した図を提出して申出をすることにより、「法定相続情報一覧図」という書面の写しを法務局の証明を付けて発行してもらえるという制度です。この証明書は無料で何通でも発行してもらうことができます。

何のためにこのような制度を作ったのかというと、相続手続きが簡単になることにより、面倒な不動産の相続登記が未了のまま放置されるのを減らすことができるというのが主な理由のようです。

この制度を利用するメリットとして法務省(制度を作った側)が強調しているのが、相続手続きの同時進行が容易にできて時短になり、また戸籍除籍謄本等の束を集めるのが1度で済み、経済的にも負担減になるということのようです。相続手続きの同時進行とは、「管轄の違う複数の法務局に同時に不動産の相続手続きができる」とか、「不動産の相続手続きと銀行等他の機関での相続手続きが同時に進行できる」ということが挙げられています。

相続登記が必要な不動産が法務局の管轄が違うところにある場合には、従来は戸籍除籍謄本等の束が複数ないと手続きの同時進行ができませんでしたので、この場合はメリットがあるように思えます。しかし、なんとこの制度は不動産登記手続での使用が認められていますが、他の相続手続きに使えるかどうかは他の機関(銀行・証券会社等)の判断に任されているとのことです。つまり、不動産の相続手続きと銀行等他の機関での相続手続きが同時に進行できるかどうかは分からない(できない可能性がある。)というのです。また、他省庁管轄の相続手続き(相続放棄などの手続き)には使えないため、利用できる範囲が著しく狭いというのが現状です。

今後は他省庁管轄の相続手続きや民間機関(銀行・証券会社等)にも利用を促す方針のようですが、現在はまだ始まったばかりということもありますので、積極的な活用は控えて様子見を決め込むのが得策ではないでしょうか。

空き家を増加させる登記制度

年々増加する空き家の数は、2014年は7軒に1軒の割合で、これが2033年には3軒に1軒にまで増えるであろうという衝撃的な数字が、野村総合研究所から発表されています。空き家を増やす原因の一つとして、現在の登記制度が挙げられます。

不動産の登記は大きく分けると、不動産のハード部分(所在・面積など)を表示する表題部と、ソフト部分(所有者や担保など)を表示する権利部に分かれており、表題部の登記をすることは義務付けられていますが、権利部の登記は義務ではありません。したがって、売買などの場合で権利部の登記をしないことはまず考えられませんが、相続が起きたときに名義を変更することが義務とはなっていないため、放置されるケースが多いのです。登記するためにも費用がかかることや、相続人間での話し合いがつかないなど、当事者の理由で放置されることもありますが、国の制度が足を引っ張るケースが多いのも事実です。例えば登記が義務付けられていないことはもちろんですが、相続人の中に認知症の方がいれば、話し合いをするために家庭裁判所で、成年後見人を選任しなければならなかったり、行方不明者がいれば不在者財産管理人を選任しなければならなかったり、相続人全員が相続放棄をした場合に相続財産管理人を選任しなければならなかったりと、それぞれ法律の専門家が選任されなければ、前に進めないということに陥ります。それも一律ではない仕事内容で簡易なケースについても、一般消費者の金銭感覚からしてみても、法外ともいえる報酬を裁判所の認定のうえ受け取られ、なおかつこれでもかというほど待たされます。こういう公共性の高い職務については、もっと安価に迅速に進めるようにしなければ登記制度が破たんすることにならないでしょうか?

社会問題化してくる空き家について、「相続登記はしてますか?」という、おざなりの問いかけをポスターで貼り出す費用と時間があるのなら、これらの硬直した制度を見直さないことにはますます、所有者不明の不動産が増えるばかりです。当事務所でも現在70名の相続人がいる案件を手掛けておりますが、このケースは昔相談した司法書士が、売却しないのであれば相続で名義を変えることもないとアドバイスをしたために、現在の相続人の方が多大な苦労と費用を負担することになってしまっており、もう一代放置されていたらとぞっとします。皆さんにも相続登記は義務ではないからと放置せず一日でも早めの手続きをお勧めいたします。

配偶者の相続優遇代替案

相続に関する法律の改正についての続報です。法務省の法制審議会民法(相続関係)部会が出した配偶者の法定相続分を現行よりも引き上げるという中間試案に対して、パブリックコメントでは反対意見が多数となる結果になったことはこのコラムでも触れましたが、同部会では見直し案として、新たな配偶者の居住用不動産の相続における優遇案を検討しています。

新たに示された優遇案は、「婚姻期間が20年以上経過した夫婦で、配偶者が居住用の建物や土地の贈与を受ける場合を対象とし、贈与者の死亡により相続人間で遺産分割する際に、配偶者が贈与(遺贈)を受けた居住用財産については遺産分割の際に遺産の計算に含めないこととする」というものです。

相続税法の中には、20年以上の夫婦間で住宅や住宅取得資金の贈与が行われた場合には、2千万円まで非課税とする「贈与税の配偶者控除」の規定がありますが、同特例を適用して贈与した財産でも、贈与者の死亡後は、特別受益として遺産分割協議や遺留分減殺請求の対象となってしまいます。今回の新しい案は、相続税法の「贈与税の配偶者控除」と連動させることによって、より配偶者を優遇したものになる可能性があります。

「贈与税の配偶者控除」の趣旨は、(1)夫婦の財産は夫婦の協力によって形成されたものであるとの考え方から、夫婦間においては一般に贈与という認識が薄いこと、(2)配偶者の老後の保障を意図して贈与される場合が多いこと、などが挙げられます。この趣旨を生かし、相続に関する法律の改正において、法制審議会はこの配偶者優遇措置を講じることで、遺された配偶者が住宅を確保しやすくなるとともに、住宅以外の遺産についても取り分が得やすくなるとみています。

相続に関する法律の改正については、引き続き法制審議会において検討される予定なので、今後も注視していきたいところです。

 

相続などにより発生する空き家の課税が6倍に

最近、新聞紙上などでよく見かける空き家問題。日本の家屋は今7件に1件は空き家になっている状態です。

空き家になる原因で一番多いものは「相続」を契機としたものであると思います。核家族化が進み、親が亡くなったあとの実家が仏壇の処分などに困り、そのまま空き家となっているケースや、相続人全員が「相続放棄」をしてしまったが、100万円もの予納金が必要となる相続財産管理人制度に、放棄した相続人がそんなお金を出したくないとのことで、最終処分がされないまま放置されているケースなどさまざまです。

空き家問題とひとくくりに言っても、多くの問題がありますが、今回はそのうちの一つ、固定資産税(地域によっては都市計画税も含めて)についてのお話です。

以前は、建物が建っている土地は「住宅用地の特例」として固定資産税が最大1/6、都市計画税が最大1/3まで減額されていましたので、空き家でも取り壊しをしない方が多かったと思います。しかし平成27年度から、この特例が「特定空家等」へは適用しなくなることが決定されました。つまり毎年かかる税金が6倍まではねあがる可能性がでてきたということです。

では「特定空家等」とはなにかというと「そのまま放置すれば倒壊等著しく保安上危険となるおそれのある状態又は著しく衛生上有害となるおそれのある状態、適切な管理が行われていないことにより著しく景観を損なっている状態、その他周辺の生活環境の保全を図るために放置することが不適切である状態にあると認められる空家等をいう」として、市町村から指定を受けた建物のことをいいます。

税金の問題だけでなく、構造物の崩壊等による人への被害、近隣住民への迷惑、治安の悪化、放火の原因など、空き家にしておくと多くの問題を惹き起こし、その賠償責任は相続人の方へ請求されるものもありますので、早めに処分や、今後の活用を検討しなければならなくっております。くれぐれもご注意ください。

配偶者のさらなる相続優遇案、反対多数で修正!?

 

民法の相続に関する法律の大幅な改正が検討されていることをご存じでしょうか?相続に関する法律の大幅な改正は、昭和55年に配偶者の法定相続分が3分の1だったのを2分の1にして以来大きな見直しはなく35年以上が経過しています。その間、社会の情勢は大きく変化しており、特に高齢化が進行しています。こういう状況を踏まえて、法務省の法制審議会は平成28年6月21日に民法の改正案がある程度まとめられた中間試案を発表しました。この中間試案のうち、「配偶者の法定相続分を引き上げる」という部分に対してされた意見公募(パブリックコメント)では、反対意見が多数となる結果になりました。今回の中間試案では、相続人が配偶者と子どもの場合では配偶者の割合を3分の2にする(現行では2分の1)というものでした。配偶者の法定相続分を上げようとした理由は、高齢化で婚姻期間が長くなり、配偶者の貢献割合が以前よりも大きくなっていると考えたためです。しかし、パブリックコメントでは、「配偶者だけが財産の増加に貢献するわけではない」「夫婦関係が壊れていても取り分が増えるのは不公平」などの反対意見が多数みられたため、配偶者の相続分を増やす方向での改正は行われる見込みがあまりないと考えられます。

相続に関する法律の改正については、引き続き法制審議会において検討される予定なので、今後も注視していきたいところです。

 

預貯金が遺産分割の対象財産となった

あけましておめでとうございます。本年もどうぞよろしくお願いいたします。

2017年最初のコラムは、「預貯金が遺産分割の対象財産となった」という内容で、お伝えしたいと思います。

こう書くと、「えっ?今まで預貯金は遺産分割する財産じゃなかったの?」と思われるかも知れません。

実は、預貯金については2004年の最高裁の判例等で、「相続が開始すると同時に当然に分割され、各相続人がその相続分に応じて権利を承継する。」となっていたんです。あくまで判例上はですが。(もちろん相続人間で遺産分割することを妨げるものではありませんでした。)

ということは、理論上、相続人の方はそれぞれ自分の相続分に相当する額であれば、銀行等で一人で引き出す手続をすることができたということだったのですが、実際上、そういう手続に応じていた金融機関は非常にまれでした。これは、金融機関側が他の相続人から、「何で勝手に引き出すことを許したのか?」と言われて訴えられたりするリスクを回避するためでありました。要は、判例と、金融実務では異なる取り扱いがされていたのです。

このたび、2016年12月19日に最高裁では、これまでの判例を変更して、預貯金も遺産分割の対象となるという判断をしました。このことによって、ごく少数派であった、各別の相続人からの引き出し手続きに応じていた金融機関も、取扱いを変更することは必至となりました。

金融機関は口座名義人の死亡を把握すると同時に、その口座を凍結してしまうのが通常です。その口座を解約したり、名義変更を行う場合は遺言や、遺産分割協議書、戸籍謄本等をそろえなければなりません。亡くなられた方の資産で生活している相続人がいるような場合、亡くなられた方がなんの対策も講じていないと、生活ができなくなったりすることも想定されるので、くれぐれも遺言や民事信託などの準備をして、相続人がスムーズに預貯金を引き出すことができるよう手配をしてあげて頂きたいと思います。

数次相続における「1人遺産分割協議」

「数次相続」とは、不動産の所有者が亡くなったことにより相続が開始したあと、遺産分割協議や相続登記などの相続手続きをしないでいるうちに、さらにその相続人であった方が亡くなってしまい、次の相続が開始されてしまうことを言います。

例えば、不動産の所有者である父が死亡(1次)し、その遺産分割協議が終了しないうちに父の相続人の一人である母も死亡(2次)した場合などです。

数次相続の場合、相続登記は起こった相続の数だけ行わないといけないのが原則ですが(上記の例だと2回)、残った相続人全員で遺産分割協議を行うと、1件で相続登記ができます。

ここで、残った相続人が1人だけであった場合、遺産分割協議はどうなるの?という問題がでてきますが、1人でも遺産分割協議を行い、遺産分割協議書(決定書)を作成し提出すれば1件で相続登記ができていました。

しかし最近。裁判所の判決により、「遺産分割をしないまま第2次相続が開始し、相続人が1人となった場合において、遺産処分決定を観念する余地がない」として、1人遺産分割協議はできないとの判断が下されました。(東京高裁平成26年9月30日判決及び東京地裁平成26年3月13日判決)

これを受けて、大阪法務局管内においては、最終の唯一の相続人が、遺産分割協議書(決定書)などを作成して相続登記の申請をする場合であっても、登記の申請を受理しないということで統一されることになりました。

つまり、数次相続で最終の相続人が1人だけになった場合、原則どおり相続の数だけ相続登記をしなければならなくなってしまったのです。相続登記の回数が増えるとその分登録免許税を多く支払わないといけなくなり、相続人の負担は増えます。今まで出来ていて、特に問題が生じていることでもないのに、負担を増やして増税の方向に動いていくのは、なんだが釈然としない気持ちです。

婚姻関係にない男女の間に生まれた子(嫡出でない子)の相続

数年前に新聞をにぎわした、婚姻関係にない男女の間に生まれた子(非嫡出子)の法定相続分についてです。

以前の法律では、非嫡出子の法定相続分は嫡出子の法定相続分の2分の1という取り扱いがされていたのが、平成25年9月4日の最高裁判所の決定を受けて、平成25年12月11日の法改正により、嫡出子、非嫡出子の法定相続分は平等となりました。(新法が適用されるのは、施行日から少しさかのぼり、平成25年9月5日以降に発生した相続です。)

この改正が不動産の相続登記にどのように影響するかというと、注意しなければならない点があります。

新法適用日以降に発生した相続については、両者の法定相続分が平等であることは疑う余地はないのですが、上記最高裁判所の決定の中で、「以前の法律の取り扱いが平成13年7月1日以降は憲法違反であった」ということを言ったので、じゃあ平成13年7月1日以降、新法適用日の前日平成25年9月4日までの間に発生した相続についてどう取り扱ったらよいのかという点です。

 

これについては、2つの取り扱いに分けられます。

1.確定的なものとなった法律関係には影響を及ぼさない。

…遺産の分割の協議や裁判が終了しているなどの場合には、その効力が覆ることはありません。

2.1以外の場合は、新法に基づいて両者の法定相続分は平等となる。

…1のような状態になっていない相続(例:遺産分割協議が成立していない)については、新法に基づいて法定相続分が判断されることになります。

上記期間に発生した相続に関して不動産登記は、以下のように取扱われます。

  1. 民法の規定に従って法定相続分に応じて不動産等を相続した場合、嫡出でない子の相続分が嫡出である子の相続分と同等であるものとする。
  2. 法定相続以外の遺言や遺産分割等に基づいて不動産等を相続した場合、当該遺言や遺産分割等の内容に従って処理する。
  3. 改正される前の差別されていた法律に基づいて、法定相続分に応じてすでにされている登記の更正を内容とするもの等、1.2以外の申請等については、当該申請等に係る登記の原因に応じて、当該登記の内容が最高裁決定の判示する「本件規定を前提としてされた遺産の分割の審判その他の裁判、遺産の分割の協議その他の合意等により確定的なものとなった法律関係」に基づくものであるかどうか等を判断し、処理する。

(平成25年12月11日付け法務省民二第781号民事局長通達)

上記期間に相続登記をされた方で、心当たりのある方はご相談ください。

二次相続で争族

「二次相続」とは2回目の相続という意味です。主に、両親の片方が亡くなって1回目の相続が発生し、その後もう片方が亡くなることで2回目の相続が発生する場合のことを指します。実は、平成27年1月の税制改正により相続税の課税最低額が引き下げられたことによってこの二次相続の問題も急増しています。

例としては、「夫婦と子供2人の4人暮らしの家族が、父親が亡くなり、母親が相続しました。その後、子供が独立しそれぞれ持ち家を持ちました。母親は実家で1人暮らしをしていましたが、この母親が亡くなりました。親の財産はこの実家ぐらい。」といった場合です。父親から母親への相続(一次相続)では、相続税の配偶者控除があるため、不動産の価値が1億6000万円を超えなければ相続税はかかりません。しかし、母親から子供への相続(二次相続)では、配偶者控除はありませんので課税最低額が引き下げられたことがモロに影響してくるのです。

子供はそれぞれ持ち家を持っているので実家には誰も住みません。売却して代金で相続税を支払えればよいのですが、場所によっては買い手がつかなくて売却できないこともよくあります。そうなると空き家として放置しておくことになってしまいますが、固定資産税は支払わなくてはなりません。しかも、自治体に危険な空き家と認定されてしまうと固定資産税の優遇措置も取り消されてしまい、更地と同等の固定資産をかけられてしまう危険もあります。ここも税金、あそこも税金です。結果、兄弟間で揉めに揉めて、「争族」に発展してしまうのです。

この問題は今後も増え続けていくと思います。国や自治体には早急に対策を講じて欲しいものです。

法定相続情報証明制度で相続手続きが簡単になる?

法務省では、2017年5月の開始を目指して、「法定相続情報証明制度」というモノを新設することを発表しました。

これは、相続人全員の氏名や本籍などの情報をまとめた1通の証明書を発行するというもので、被相続人の出生から死亡までの戸籍謄本は、亡くなった人によっては大量になることもありますが、財産ごとに相続の手続をする際に、その書類全部を持参しなくても、最初に書類一式を法務局に提出すれば、その後は法務局の発行する1通の証明書の提出で済むようになるということだそうです。

これが相続手続きの簡素化になるのか?というと、相続手続きを受け付ける側(銀行や証券会社、生命保険会社など)にとっては楽になるかもしれません。というのは、全ての戸籍を確認して、相続人が誰になるのかの判断をする作業を、法務局任せにすることができ、その責任を回避することができることになるだろうからです。

ただ、相続人の方々の負担が減るかというと、ほぼ変わらないと思います。

我々も、相続人の方から遺産承継業務として、財産の名義変更や、解約手続きを行うことが多いのですが、その経験から言うと、法務局に証明書を発行してもらうためには、全ての戸籍を必ず集めなければならないでしょうし、それぞれ銀行や、生命保険会社に対する手続で、その戸籍全てが必要になっていたのは事実ですが、すべて原本は返してくれていましたので、この証明書ができたことで、相続人の方からすると持参する書類が軽くなる程度のメリットしかないように思います。

我々実務家からすると、問題はそこではないのでは?と思ってしまいますが、これからパブリックコメントを集めて詳細を決めていくのだそうです。

相続手続きの問題としては、裁判所で手続きが必要となる不在者財産管理人や、相続財産管理人の予納金の高さが、社会問題を引き起こしている原因になっている事実に気づいてほしいと思います。

相続登記の添付書類(「他に相続人はない」旨の証明書)

相続を原因として不動産の名義変更をするための相続登記を申請する際に、亡くなった方の生まれてから亡くなるまでの全ての戸籍(除籍、原戸籍含む)を揃えて相続人となる人全員を特定しなければばりません。

しかし、古い除籍や原戸籍は保存期間が設定されており、保存期間が過ぎていると市町村で保存されず、廃棄されてしまいます。廃棄されたものは、もう確認のしようがありません。

そうなると、相続登記に必要な戸籍が揃わなくなってしまいます。

そのような場合、廃棄されていない戸籍等から特定できる相続人全員が、「(証拠は何もないけども)他に相続人はいないと証明するので、相続登記をしてください。」という内容の書類(「他に相続人はいない」旨の証明書といいます。)に相続人全員の印鑑証明書を添付して提出すれば登記ができる取扱いでありました。

この取扱いは50年近く続けられてきましたが、近年「他に相続人はいない」旨の証明書が添付できない場合が増えてきていることもあって、平成28年3月11日以降は、戸籍及び残存する除籍等の謄本に加え除籍等(明治5年式戸籍(壬申戸籍)を除く。)の滅失等により「除籍等の謄本を交付することができない」旨の市町村長の証明書(廃棄証明書)が提供されていれば、この「他に相続人はいない」旨の証明書は不要になりました。(平成28年3月11日法務省民二第219号)

元々、何の意味があるかわからない「他に相続人はいない」旨の証明書だったと思いますので、ようやく少し相続人の負担が減ったということでしょうか。

新たな相続税対策(遺言控除)

少し前の情報になりますが、まだ実施されていない制度ではあるので、あえてご紹介させて頂きます。

自民党の「家族の絆を守る特命委員会」で、遺言に基づいて遺産を相続すれば、相続税の負担を減らせる「遺言控除」の新設を要望する方針を固めました。早ければ平成29年度税制改正での実施を目指すとのことです。

相続税とは、遺産総額から基礎控除額を差し引き、残りの額に税率をかけて算出します。基礎控除額は平成27年1月から「3,000万円+法定相続人の数×600万円」と大幅に引き下げられています。遺言控除はこの基礎控除に上乗せできる形で、課税対象となる遺産の額を減らせるため、相続税負担を軽減できることになりそうです。

遺言控除の導入目的は、遺言による遺産分割を促進し、遺産分割をめぐるトラブルを防ぎ、空き家問題などをこれ以上深刻化させないことや、寄与分という法律上の制度では少なすぎるといわれる、介護した者の貢献に見合う遺産相続を促進することといわれています。

現段階では、控除額がいくらになるのかとか、控除が受けられる遺言書の要件はどういうものなのかなど、具体的な内容は不明ですが、この制度により、予防法務として遺言書をつくる方々が、今以上のスピードで増えていくことは間違いないと思います。

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