遺言の種類と作成方法


遺言事項

遺言書と万年筆

財産に関する事項以外にも遺言で定めることができますが、遺言の内容に法律効果をもたらすことができる事項は、法律で決まっています。

この事項を『遺言事項』といいます。

もちろんそれ以外のことを書いてはいけないというわけではありません。

法的には効力を持ちませんが、付言事項として家族へのメッセージや遺言を書くに当たっての心境(なぜ、このような遺産配分をしたのか、など)を残しておくことも良いかもしれません。

 

(1)財産の処分に関すること

第三者への遺言

お世話になった人など相続人以外の人にも財産を贈与することができます

社会に役立てるための寄付

社会福祉団体や公的機関や菩提寺などに財産を寄付することができます

 信託の設定

家族や信託銀行などに財産を管理・運用してもらうための信託設定をすることができます

(2)相続に関すること

法定相続分と異なる相続分の指定

法定相続分とは異なる相続割合を希望する場合に、相続人それぞれの相続分を指定することができます

相続人ごとに相続させる

財産の指定

相続人それぞれに、誰に何の財産を相続させるか指定することができます

遺産分割の禁止 5年間遺産分割を禁止することができます

生前贈与、遺贈の持戻しの免除

生前に行っていた贈与などは、相続が発生したときに、さかのぼって調整されたりすることになりますが、遺言によってそれを免除することができます

遺留分の減殺方法の指定

相続人の遺留分が侵害された場合、遺贈等の減殺の順序や割合を指定することができます

共同相続人間の担保責任の減免・加重

遺産分割後にその相続を受けた財産に欠陥があって損害を受けた時、相続人同士はお互いの相続分に応じて保障しあうことが義務となっていますが、遺言でその義務を軽減したり加重することができます

遺言執行者の指定

 遺言の内容を実際に執行してもらう人を指定することができます

(3)身分に関すること

認知

婚外の子を認知することができ、認知された子は相続人となることができます

法定相続人の排除またはその取り消し

相続人を廃除したり、また廃除の取り消しができます
未成年後見人の指定

相続人の中に未成年者がいて親権者がいない場合は、遺言によって後見人を指定することができます

遺言は被相続人ごとに作成します。

二人以上の者が同一の遺言書で共同して遺言することを共同遺言といい、民法で禁止されています。

遺言の種類は、まず大きくは普通方式の遺言と、特別方式の遺言に分かれます。 

普通方式

  • 自筆証書遺言

遺言者本人が、その全文・日付及び氏名を自書した書面に捺印したものです。

文字としては、略字や略語、外国語でもかまいませんが、タイプライター・ワープロ文字や代筆、テープに吹き込んだり、ビデオで録画したものは認められず、必ず自分で書くことが必要となります。

 自筆証書遺言の作成手順

 

  • 公正証書遺言

公正証書遺言とは、公証人が遺言者の口述をもとに、遺言書を作成し、その原本を公証役場で保管するもので、安全で確実な遺言書であることは間違いありません。

口述の際には、2名以上の証人立会いが必要です。

公証人が作成した遺言書に、遺言者、証人、公証人が署名押印すれば、公正証書として認められます。

 公正証書遺言の作成手順

 

  • 秘密証書遺言

公正証書遺言と同じように公証人の面前で作成するのですが、遺言書の内容を密封して、公証人も内容を確認できないところが相違点です。

自筆証書遺言と秘密証書遺言は、作成時点ではその内容を本人以外に知られることがなく、内容の秘密を守ることができますが、本人の死後に家庭裁判所で検認という手続きが必要となります。

 秘密証書遺言の作成手順

 

特別方式

  • 危急時遺言(死亡危急時・船舶遭難者)

危急時遺言は、遺言者に死亡の危険が迫って自ら遺言書を自署したり署名押印ができない場合に許される例外的な遺言で、証人に対して遺言の内容を口頭で伝え、証人の1人が筆記等をすることにより作成する方式です。

この場合の証人も、公証人役場での証人資格と同様です。

これは緊急的な措置ですので、基本的には本人が健康で、しっかりした意識状態で遺言作成することが望ましいです。

 

  • 隔絶地遺言(伝染病隔離者・在船者)

隔絶地遺言とは、遺言者が一般社会との自由な交通が遮断された場所にいるため、普通の方式による遺言ができない場合に認められる方式です。

ちなみに危急時遺言と隔絶地遺言は、遺言者が普通の方式による遺言をすることができるようになってから6ヶ月間生存するときは、その効力がなくなります。

 

遺言の作成方法

自筆証書遺言の作成手順

  1. 全文を自書すること。タイプライターやワープロ・パソコンで打ったりしたもの、他人に代書させたり遺言者の口述した内容を他人が筆記したものは、無効です。
  2. 用紙の制限はありませんが、耐久性のあるものを選び、封筒は中身が透けて見えないものを選ぶ。筆記具もボールペン、万年筆など何を使用しても構いませんが、鉛筆、水性ペン、消せるボールペンなど消えやすいものは避けます。録音や映像は無効です。
  3. 日付、署名も自書で記入する。
  4. 捺印をすること。認印や拇印でも有効ではありますが、本人確認の面から実印で捺印することがベストです。また遺言が複数枚にわたる場合には必要要件ではありませんが、割り印をしておきます。
  5. 加除訂正する時は、訂正個所を明確にし、その個所に捺印の上署名すること。

 

公正証書遺言の作成手順

(1)必要な書類を集める。

a)遺言者の印鑑証明書、戸籍謄本

b)受遺者の戸籍謄本、住民票、法人の登記簿謄本(会社等の法人に遺贈する場合)

c)不動産の登記簿謄本、固定資産評価証明書(又は固定資産税納付書)

d)預貯金の通帳のコピー

e)証人の住民票

などが必要です。

 

(2)財産の内容を確認する。 

 

(3)誰に、どの財産を、どれだけ相続させるのかあらかじめ決めておく 。

 

(4)遺言書の原案を作成する。

 

(5)証人2人に依頼する

※証人に適当な人がいなければ、報酬は必要ですが、公証役場で紹介してもらうこともできます。

※推定相続人、未成年、被後見人、被保佐人、公証人の配偶者・四親等以内の親族、書記および雇人などは証人の資格がありません。

公証人と事前に打ち合わせをする。

 

(6)証人2人以上の立会いのもとで、公証人役場へ出向く(もしくは公証人に出張してもらう)こと。

 

(7)遺言者が遺言の趣旨を公証人に口述する。

聴覚・言語機能障害者は、手話通訳による申述、または筆談により 口述に代えることができます。

 

(8)公証人がその口述を筆記し、これを遺言者及び証人に読み上げ、または閲覧させる。

実務上は、遺言者が公証役場で話す内容をその場で公証人が筆記するという方法で遺言が作成されることはほとんどありません。予め原稿で遺言内容を証書に作っておき、遺言者にその要領を言わせて確かめる方法で作成されます。

 

(9)遺言者および証人が筆記の正確なことを承認したうえで、各自が署名捺印する。

 

(10)公証人が、その証書を、法律に定める手続きに従って作成されたものである旨を付記して、これに署名捺印する。

 

作成された原本は、20年間もしくは遺言者が100歳ないし120歳に達するまでの、どちらかの長い期間、公証人役場に保管されます。

 

公正証書遺言をお勧めする理由は、紛失、偽造を防止できることと、法的に間違いのないものが作成できることです。

  • 遺言検索システム

平成元年以降に全国の公証人役場で作成された公正証書遺言及び秘密証書遺言につき、コンピュータによりその遺言者等を登録しています。遺言者の死後、相続人らは遺言書の有無を最寄りの公証人役場の公証人を通じて照会を依頼することができます。なお、この照会は、相続人等利害関係人だけしかできません。

 

 

秘密証書遺言の作成手順

(1)遺言者が、その遺言書に署名し、押印します。この場合に自筆証書遺言と異なり、自筆でなく、

他人に書いてもらっても、また、ワープロやタイプライターを使って作成しても構いません。

 

(2)遺言者がその遺言書を封筒に入れ、遺言書に押したのと同じ印で封印をする。

 

(3)遺言者が、公証人役場に出向き、もしくは公証人の出張を求め、その封書を公証人1人および

証人2人以上の前に提出し、自分の遺言書である旨と、その筆者の氏名、住所を述べる。

(聴覚・言語機能障害者は、手話通訳による申述、または筆談により 口述に代えることができます。)

 

公証人が、その証書を提出した日付と、(3)で遺言者が述べたことを封紙に記載したのち、遺言者、証人とともに署名し、押印する。

普通方式の各種遺言の比較

  メリット デメリット

公正証書遺言

  • 家庭裁判所での検認手続が不要
  • 死後すぐに遺言の内容を実行できる
  • 紛失・改ざんの心配がない(公証役場で保管)
  • 費用がかかる
  • 証人が必要

自筆証書遺言

  • 手軽でいつでも自由に書ける
  • 費用がかからない
  • 誰にも知られずに作成できる
  • 不明確な内容になりがち
  • 形式の不備で無効になりやすい
  • 紛失や偽造・改ざん、隠匿のおそれがある
  • 家庭裁判所での検認手続が必要

秘密証書遺言

  • 遺言内容の秘密が保てる
  • 自書でなくともよい(専門家に依頼が可能)
  • 改ざんの心配がない
  • 公正証書遺言よりは費用が安い
  • 秘密証書としての方式違背があっても自筆証書遺言として効力を認められる可能性がある
  • 家庭裁判所での検認手続が必要
  • 紛失、隠匿のおそれがある
  • 形式の不備で無効になることがある
  • 公正証書遺言ほどではないが費用がかかる

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