平成20年10月1日に「中小企業における経営の承継の円滑化に関する法律」が施行されました。これを受け、遺留分に関する民法の特例にかかる規定については平成21年3月1日から施行されました。
これまでは生前贈与で後継者に移転した自社株式についても、遺留分の基礎財産に加えられるため、遺留分侵害分を取り戻されることがよくありました。要するに、自社株式などを後継者へ移転した分は、遺留分権利者から遺留分の減殺請求をされた場合に、遺留分の算定の基礎財産に加えられ、遺留分侵害分が後継者以外の相続人に移転する危険性が残っていたのです。
相続税の算定にも問題がありました。 現行の税法では、相続税の算定時に合算される額は贈与時の評価額ですが、民法上の遺留分の算定では「相続開始のときにおける価額」となっています。そのため、生前贈与後に後継者の貢献により株式価値が上昇すると、上昇した分だけ相続時点の遺留分減殺請求の額が増え、後継者の事業承継意欲を阻害することとなっていました。
今回の「経営承継円滑化法」は、事業承継の阻害要因だった民法の遺留分制度に対しての特例です。また、「非上場株式に係る納税猶予制度」は、事業承継の阻害要因だった相続税及び贈与税負担に対しての納税猶予措置なのです。
上記の2つの課題に対して以下の導入効果を期待されました。
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ところで、円滑法が施行された平成21年3月から平成26年2月末までに民法特例の利用件数はたったの69件という状況です。
円滑法の遺留分に関する民法特例制度は、平成25年度に一部改正があったものの、まだまだ要件が多岐に亘り、経済産業省と裁判所の双方の確認と許可が必要です。
また、いったん合意しても、先代経営者の生存中に後継者が死亡し、又は後見開始若しくは保佐開始の審判を受けたり、合意の当事者以外の者が新たに先代経営者の推定相続人となったり、合意の当事者の代襲者(例:孫)が先代経営者の養子になったりすると、合意の効力は当然に消滅してしまいますので、上記のような利用実態となって現れているものと思われます。円滑法の遺留分特例制度については、より大きな視座からの再検討が図られるべきものと考えます。